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2008年 ヴェネツィアという舞台にて

 


                              岡 惠介  (東北文化学園大学教授)

 2006年の一月、家族でイタリアを旅した。ローマで旧跡を訪ねた後、江花先生のお宅に伺うと、一日歩き疲れた小学校5年生の息子は、ベッドですやすやと寝息をたてはじめてしまった。夕闇が迫り、徐々に暗くなっていく天井の高い部屋で、先生はいかにも東洋人らしい顔つきで坊主頭の息子が珍しかったのか、ずっとベッドの横についておられた。

 フィレンツェで観光に精を出し、次に列車で向かったのはヴェネツィアだった。船から下りると早速、道に迷った。スーツケースを押しながら太鼓橋を幾度も渡る。休んでいると、鼻の赤いおじさんが話しかけてくる。ホテルの名を言うとそれなら簡単とばかり、イタリア語で饒舌に説明してくれる。この世にイタリア語を解せぬ人間などあろうか!ヴェネツィア。江花先生の作品群でも、もっとも多く描かれている島。なぜ先生は、アカデミア橋や、ゴンドラの浮かぶ朝焼けなど、この地を訪れたすべての画家が描いたであろう、あたかも名所絵のような美しすぎて近寄りがたい情景を描き続けるのか。そこまで先生を惹きつけるヴェネツィアの魅力とは何か。わたしは自分の目で確かめたかった。もちろん数日行ったぐらいでわかったとは思はない。しかし、今回の先生の作品を見て再確認したのは、その情景のなかにいわゆる名所絵には決して描かれない、そこで暮らす、旅する、人々の暮らしの哀歓・祈りが描かれていることだ。単なる点景の人物ではない。美しすぎる歴史的遺産の街並みを背景に、今日も男たちが潮をみながら漁に出る。その新鮮な魚を出すレストランを先生にこっそり教えてもらいながら、またヴェネツィアの迷路につかまった私たちは、別のレストランで貝のパスタを食べたのだが、これも絶品だった。

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